東海光学お客様相談室です。
今回は、改めて光で色が変わる調光レンズを取り上げます。
【以前の記事】
・太陽光で色の濃さが変わる調光レンズ
・太陽光で色の濃さが変わる調光レンズ(夏編)
・体験レポート~可視光線でも色の濃さが変わる新タイプの調光レンズ~
まずは、一番気になる「車の中」での変わり具合の再検証です。
右眼に紫外線で変わる「トランジションズS」、左眼に可視光で変わる「トランジションズ エクストラアクティブ」を入れてみました。
連日高温が報じられていた時期でしたので、外気温は38.0℃、車内は何と47.0℃!
さすがにコートが傷んでしまう為、少しクーラーをかけて車内温度は下げたものの、陽炎が見えるほど熱くなっているダッシュボードに顔を近づけ、3分我慢しましたが…結果はご覧の通り、気持ち変わったかな?という程度でした。濃度で言いますと25%程度といったところです。
続いて、「オフィスの中」での変わり具合です。
当日の気温(室温)は27.2℃。ちょうど私の席は寂しいことにオフィスの中で最も「窓際」ですので、調光させるには好条件ですが、日差しが入る為、席近くは28℃を超えています。
しばらく(10分程)掛けながら仕事をしてみました。
ご覧の通り、さらに微妙に変わったかな?という具合でした。5~10%程度の変化です。
窓際と言っても窓からは2m位離れている事、クーラーが効いているといえども半袖で過ごせるほどの温度条件であったこと等もありますし、窓を締めきった室内ではなかなか反応はしないようです。
せっかくの再検証でしたが、「高温」という高い壁に阻まれメーカーという立場からは少々ネガティブな結果しか得られませんでした。水谷からの「屋外でのシーンごとの変化具合など特に何をしている時が効果を発揮するのか」という点も検証を進めてみようかとも思いましたが、似たような結果になる可能性が高いので、そもそもなぜ温度が高くなると色が濃くなりにくくなるのかという点を改めて考えてみました。
調光を使用されている方はみなさんご経験されている事でしょうし、実際窓口にもよくお問い合わせを頂く内容です。いつもは「温度依存があるから」と一言でお答えしてしまっていますが、もう少し踏み込んで考えていきたいと思います。
まず、調光レンズは紫外線(エクストラアクティブは可視光)に分子が反応する事で着色する仕組みです。但し、この分子は温度(気温)によって以下のような影響を受けます。
【気温が低い状態】
・色が濃くなる。
・退色(フェーディング)が遅くなる。
【気温が高い状態】
・色が濃くなりきらない。
・退色は早くなる。
なぜこういった現象が起きるのでしょうか。
先にも記述した通り、「調光レンズは紫外線(エクストラアクティブは可視光)に分子が反応する事で色の濃度が変わる仕組み」のレンズです。
分子が反応する=着色する、と考えがちですが、「反応」には着色も退色も含まれます。
この着色と退色の平衡が崩れること(可逆反応)によってレンズの見た目が変わるのです。
紫外線や可視光に反応し、着色した調光の分子は温度が上がるにつれ分解(退色)するスピードが徐々に早まっていきます。
寒い日は着色スピードが退色スピードよりも優位になる事で、どんどん色が濃くなっていきます。
反対に、暑い日は退色のスピードが寒い日よりも早くなる分、着色と同時に退色も進んでいきます。温度が上がれば上がるほど退色のスピードが優位となり、濃くなりきる事ができなくなってしまうのです。
コトバだけですとややこしいので、「綱引き」をイメージするとわかりやすいかもしれません。
この温度差による濃度変化に関しては、以下ブログにて検証してみた動画がありますので併せてご確認ください。↓
<TOKAIブログ(メゾンde東海の住人)>
・サングラスレンズにも種類がある??調光・偏光・ミラーって?
☆メゾンde東海の住人☆
本年6月に開設された、東海光学のコーポレートブログです。
4人の女性スタッフが、メガネやメガネレンズに関した情報、地域の文化やトレンドについて体験談を交え発信しています。他のメンバーの投稿も併せてぜひご覧ください!
なんとなくでもご理解いただけたでしょうか?
調光レンズにはどうしてもこの温度依存のカベが付いて回ります。暑くて日差しの強い夏こそ濃いサングラスが欲しいのに…とお感じになられることも多々あるかと思いますが、物理的な内容であり、日々メーカーも性能向上に向け努力しているもののハードルが非常に高い問題であるのです。
最後になりますが、「再検証」と言いつつも内容が少し寂しくなってしまったので、少し視点を変えた実験をしてみました。
①トランジションズ エクストラアクティブ(可視光タイプ)
②トランジションズS(紫外線タイプ)
③トランジションズ(紫外線タイプの旧型)
上記3パターンのレンズに関して、UVカットレンズを被せた状態で光に当ててみたときの変化具合を確認します。
※室温26.8℃ 外気温33.0℃の条件下にて実施。
※ここでいう「UVカットレンズ」とは、400nm以下の紫外線(下図 赤の囲い部分)をほぼ100%カットするメガネレンズを指します。
※レンズを重ねることはキズの原因になりますので、真似しないようにお願い致します。
【①トランジションズ エクストラアクティブ(可視光)】
片眼にUVカットレンズを被せ、窓を開けて3分間太陽光を浴びせたところ、右図のようにかなり濃く色が変わりました。さすがに「可視光タイプ」と謳うだけの事はありますね。ただ、完全に変わりきらないところを見ますと可視光タイプとはいえ、紫外線領域も調光条件としては必要なようです。
【②トランジションズS(紫外線)】
現行の紫外線タイプのレンズです。UVカットレンズを被せることで理屈上はほとんど変わらないはずでしたが、若干なりとも反応しています。
【③トランジションズ(紫外線タイプの旧型)】
左側は現行のレンズ(上記②と同じもの)、右は旧型のレンズです。
両方にUVカットレンズを被せ、調光後の濃度比較をしてみました。旧型はほとんど変わらず、その違いがはっきりと判る結果となりました。
注)旧型は貴重なサンプルですので、メガネの形にカットしていない点についてはご容赦ください。
エクストラアクティブは、さすがに「可視光に反応」と謳っているだけあり、UVカットをしてもかなり濃く変わりました。また、「紫外線に反応」するトランジションズSですが、エクストラアクティブ程ではありませんが少し反応をしています。この反応を旧型のレンズと比較してみたところ、結構な濃度差があることが分かりました。Vol.36の水谷の車内での検証にもありましたが、やはり紫外線を超えた領域でも若干反応するものに改良されているようです。
③の延長として、旧型と現行をUVカットせず、同じ条件下で3分間太陽光に当て続けたところ以下のような結果が出ました。
パッと見でもわかるくらい、数値で見ても10%前後は濃くなっていることが分かります。
今後もこのように改良が加えられ、一歩一歩進化を続けていくはずです。
先述の温度依存の理屈とともに、こうした企業努力もご理解頂いた上で上手に調光レンズとお付き合いいただければありがたいです。
2018年 8月 初版
2024年 1月 更新